A野がギリギリ見えてきたころから、MJの寝不足が始まった。
首都圏模試の偏差値ランキング表をにらみながら、めぼしい中学をさがす。
A野やK玉社の出題傾向をにらみながら、問題を選定する。
問題を選定するためにMJが実際に問題を解く。
模試の経験値の少ないTくんに、「冬休み毎日模試」を開催するためだ。
授業の前に、塾に来てもらい、MJが指定した入試問題を制限時間内に解く。
その後の授業で解説。
つまり、MJもTくんと同じ(いやそれ以上の数の)入試問題を解かなければいけないのだ。
MJは他にも受験生を担当していたので、中学入試問題や大学入試問題を1日に何年分も解いていた。
解かなければ、テクニック以外のことは教えられない。
自分がどう解いたのかはもちろんのこと、一見しただけではわからない問題の難易度、「捨てるべき」問題、時間の配分、今の実力なら何点取らなければいけないのか、を講師が把握するためでもある。
最も大事なことは、MJの思考力が移植されているのかどうか…ということだ。
さすがに、4日も続くとTくんもふらふらだった。
疲れで模試に集中できない。
授業中の受け答えもおぼつかない。
「休憩するか?」
MJが促すが、Tくんはひたすら難問に挑戦している。
毎日毎日、TくんもMJも入試問題を解き続けた。
2人の必死な姿は、先生と生徒には見えなかった。
巨大な壁に立ち向かおうとしている「戦友」のようだった。
確かに、MJは口下手で、想いをうまく言葉にできないところがある。
「大丈夫だ。合格できるぞ。」
などという軽薄に聞こえる鼓舞は絶対にしない。
「自分次第だ。」
と冷たくも聞こえるような一言を残すのみだ。
Tくんを最後に送り出すときだって、
「……うん。……普段どおりでな。」
くらいしか言えていなかった。
言葉少ななTくんも
「……うん。まあ、やってくるよ。」
本当は、いろいろ伝えたいのだが言葉にならないのだろう。
ただ、Tくんに、MJの「想い」は確実に届いていた。
Tくんは胸を張って教室をあとにした。
「戦友」に言葉はいらない。
Tくんは、MJとともに闘い抜いたのだ。
我々は、思考力の種をまきます。
その思考力に水をやり、肥料も与えます。
しかし、芽を出すかどうかは、その子次第のような気がします。
芽を出したいという意志というか。
芽が出たら、あとは日当たり(環境)だけ気にしてください。
勝手に、葉っぱをつけて光合成をするようになります。
立派な実をつけるようになります。
Tくん、きみはMJの門下生だ。
MJの門下生は、一人の例外もなく「自分で決めた目標は何が何でもクリアする」。
MJは「忘れてくれ」と言っているけど、私は「MJとの日々は忘れないでくれ」と言いたいな。
だって、きみが全力で闘った日々だもの。
きっと将来、思い出して歯をくいしばれるから。
「あのときがんばったんだから、今度だってやれるさ。」って。
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